指物師・藤田幸治さんインタビュー

2015.7.9

第三回目となるコシラエル本店企画は、指物師・藤田幸治さんによる寄木細工展です。精巧に組み込まれた木の重なりが美しい寄木細工によって世にも素敵なハンドルたちが出来上がりました。寄木や指物とは一体どんなものなのでしょうか。ものづくりの愛に溢れた藤田さんの魅力を是非ご堪能ください。

藤田幸治 京都工芸繊維大学卒業後、インテリアデザイナーとして就業後、指物師となり、指物製作の傍らクラフト・デザインコンペ等で入賞多数。


_では、まずなぜ指物を始められたのですか?

藤田幸治(以下F):最初はね、ジオラマっていう模型のベース部分を木でつくりたいなと思って、始めたんですよ。もう何年前かな…。20何年前とかになるのかな。江東区主催の指物教室があって、そこに東陽町で指物のお茶道具などを作っている方が先生として来てくださって、その方に月2回、半年で12回教えてもらっていたんです。そこでは基本的なことを教えてもらって、そのあと参加者の人たちと自主グループを作って、時々先生を呼んで教えてもらったりしてやっていたね。それから、木でつくるのが楽しくなって…あとはほとんど自己流かな。デパートでの実演とかを見て自分で真似してやってみたりもしていましたね。

_もともと指物とは特に縁がない生活だったのですか?

F:そうだね…。ただね、うちは元々おじいさんも親父も大工だったんですよ。だから小学校の低学年の頃とかは、のこぎりで切ったりして、何か小さいものを作ったりはしていましたね。あとはもう40歳過ぎくらいまで全然何もしてなくて。指物を始める前は、趣味でジオラマとか模型をつくるのが好きだったんです。基本的には自分の手で何か小さなものをつくることは好きだったので。(写真1)

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指物でも引き出しとか箱とか、わりと小さなものばかりで、大きなものはあんまりやっていないなあ。こういうことを趣味で10年くらいやって、57歳のときに少し早めに会社を辞めてから、本格的に活動しています。

_指物と藤田さんの相性が良かったんでしょうね。

F:そうだね。ごっついものじゃなくて、精巧な技術で繊細なものを作ったりするのが面白いですね。

_指物の魅力とは何だとお考えですか?

F:魅力ねえ…。自分でこんなものをやりたいな、と思ったことをほとんど一人で最初から最後まで好きにつくれるところと、伝統的な技術を使って自分で新しいものができる、というところが面白いと思っていますね。

_指物って釘とかは一切使用していないんですよね?

F:釘は使っていないけど、接着剤は使っていますよ。見えるところには使わないけどね。

_最初指物をつくり始めるときには、木を集めるところから始めるんですか?

F:そうだね…。良い木というか、いろんな種類の木の面白いところを使って作ったりしているね。例えば、わたしは小さいものを作っているから、目がちょっと細かったりする木とかね。指物をつくるときは、まぐろでいうトロみたいなおいしい部分を使って作って、ちょっと小さいものをつくるときなんかは、切り落としの部分とかを使っているね。 板にするまでが一番大変だよ。材木が大きいから。でもわたしがつくるのは小さいものだから、ある程度製材屋さんに薄く切ってもらうんだけど。それでも、カンナをかけるのが大体7割くらいかな。板をまっすぐ、まったいらにして直角にするのが、一番大変だね。

_どちらで木を買ってくるんですか?

F:新木場に銘木屋さんがあるんです。家をつくるときに使う木とはまた違う木が売っているんですよ。そこには指物系の木とか、たとえば和室の内装をつくるような材料とかがたくさんあるんだよね。今は、圧倒的に家を建てるときの材木屋が多いから、そういう店は少ないんです。店の人は、私が使いたいものとかを大体分かってくれているから「こんなのどう?」って勧めてくれる。常連だからね。あんまり大きなものは作らないから、大きな木はいらないし、小さくてもそういうちょっと面白い木をよく買っているよ。 でも、もうたくさん買っちゃっているから使い切れなくて。たくさん買うわりには作るのが少ないからね…。もっと真面目にやればいいんだけど…。面白い木があると、ついついね。今使わなくても、いつか使うかもしれない、って思って買っちゃうんだよね。

_今一番よく使っている木はどれですか?

F:一番量を使っているのは「キハダ」っていう木だね。一番質がいいのは「クワ」っていう木でね、「島桑(しまぐわ)」っていって、伊豆七島の中にある御蔵島(みくらじま)っていうところでとれる木なんだよ。今はあんまりとれない、貴重なものなんだけど。カンナで削ると金ぴかの、金箔のような色で光るんだよ。あとは黒い「黒柿(くろがき)」っていう木とかね。これは、2年前に作った釣りの道具なんだけどね、今お客さんから同じ形のものを作ってくれって頼まれているよ。(写真2)

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これは漆を塗っているから色が変わっていて、塗って、拭きとるっていう作業を10回くらい繰り返して作る「拭き漆」っていうやり方で作ってるんです。引き出しの上と下と同じ大きさで。これは中にバネが入っていて落ちないんだよ。基本の作り方はあるのだけど、そこから工夫して指物の仕組みを考えるのも作るのが面白いね。

~ここで、特製ミルクティーを持ってきてくれる藤田氏~ (余談ですが、藤田さんお手製ミルクティーはミルクがたっぷりと入っていて、とても美味しいミルクティーでした!)

_つくる時は図面から書くのですか?

F:大体は、原寸の図面を作るんですよ。まあ、自分で書いて自分で作るからね。大体分かればいいんですよ。断面図だからね。図面は全部とっておいて、同じ依頼があったときはそれを見て作っていますよ。図面は、学生の時にちょっと習ったかな。あとは、社会人になってからも。

_作っている時に好きな作業はありますか?

F:やっぱり、最後の仕上げの組み立てのところかなあ。一番大変なのは、木を削る時だね。時間がかかるからね。今回、ハンドルを作った時に、わざと凸凹になるようにランダムに木を切り落としてそれを並べて町みたいのを作ってみたりしているよ。

_そう考えると、指物って自由なのですね。

F:そうだね。わたしは特に自由だと思う。親方のところに弟子入りしていたわけじゃないから。職人さんの技はもちろんすごいのだけど、伝統的なものがメインで、新しいデザインのものってなかなか難しいのかもね。逆にわたしはあまり伝統的なものは作ったことはなくて。今の生活に使えるような、ちょっとしたものを作っていますね。漆を塗ると水を弾くので、釣り道具屋さんに頼まれて作ることも多いですね。今こういう木の釣り道具を作っている人はあまりいないからね。

_普段依頼はどんな人からくるのですか?

F:今、メインは釣り道具屋さんからだけど、そういうところから聞いて、調べ訪ねて直接くるひともいますね。あとは、近所の木工屋さんからも時々来るかなあ。機械ではできない小さなものを作ってほしいと依頼があるよ。そういうのは結構面白いね。今回の展示では、今までにやったことのない傘のハンドルができてすごく面白いです。楽しんでいますよ。

_指物の世界って、今まであまり知らなくて…。結構未知ですね。

F:そうだよね、お年寄りでもあんまり知っている人はいないだろうね。昔は、こういった畳の生活で手元に置いていた箪笥、茶箪笥、飾り棚のことは基本的に指物って呼んでいたんだよ。それに、江戸指物っていう名前自体は昭和40年くらいからかな、そんなに古い名前じゃないんですよ。今は、和室のある家が少なくなっているし、日常生活で使う人は少ないだろうから、ごく限られた人しか買う人がいないんだけどね。

_藤田さんの目指す指物とは?

F:今の生活に使えて、あまり仰々しくない、さらっとしているものを目指しています。和風の生活でも洋風の生活でも使えるものを、ね。

_道具も買い揃えたのですか?

F:そうだね、ちょっとずつ買い足していっているね。(写真3)

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_今は家で作業をしているのですか?

F:うん。家で。最初は、小さな引き出しひとつに収まるくらいの道具だけだったんで、リビングの片隅でちょっとやっているって感じだったんだけどね。そのうち、その引き出しにローラーを付けたりカンナをかけられるようにしたりして、使いやすいように工夫したりし始めたんだよね。ノミはセットのものもあるんだけど、少しずつ必要なものを、一個二個という感じで増やしていったよ。最近はもうほとんど買っていないんだけど。いつもよく使うものは手元にあって、他の変わったものとかは、違う棚に入っているよ。カンナは似ているけど、どれも違うんだよ。厚さとか、使う場所とかによって使い分けているね。あとは、自分で見よう見まねで道具を作ってみたりね。骨董市で売っているものとかもあるよ。でも骨董市にはやっぱり状態が悪くて古いものが多いけどね。年に1、2回くらいしかいいものには巡り会えないよ。でも、どんどん増えていっちゃって。もうリビングにはおさまりきらないってことで、部屋に移動したんだよね。あと、カンナはあんまり切れなくなってからだとまた研ぐのが大変になっちゃうので、こまめに研がないといけなくてね。でも、いっぱいあるから使う道具は決まっちゃっていて。カンナなんかはいつも使うのは3つだけだよ。いっぱい研ぐのは大変だからね。切れ味がいいものの方が効率いいから、同じものばかり使っちゃいますね。

_骨董市にはよく行かれるのですか?

F:うん。よく行くのは富岡八幡の骨董市かな。あと東京国際フォーラムのところでもやっているんだよ。国際フォーラムの方は、お店も多くてより面白いのがいっぱい出ていて。そういうところに行っては、よくわけのわかんないものを探してくるよ。東京フォーラムは、最近若い女性のお客さんにも人気だね。我々が懐かしいと思うのが、若い人には新鮮で面白いんだよね。

_もともとこういう骨董のものや本が好きだったのですか?

F:そうだね。でも、骨董なんてあんまり好きじゃなかったかな。でも、40年前くらいかな、学生のころ京都へ行って京都の骨董屋さんですごく素敵だなと思って瓶を買ったよ。初めての骨董だったからすごく覚えている。(写真4)

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それからたくさん集めるようになったかな。素敵なものはあんまりないんだけどさ。置き場がなくなってきちゃってそこら辺に置いているよ。(写真5)

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あと、今骨董市でよく探しているのが引き出しのつまみかな。昔は、ざくろとか、ひょうたんとか、なすとか、すごく面白いつまみがたくさんあってね。引き出しをつくったらつけようと思って、こういうのを骨董市で探しているんだけどなかなか見つからなくて。お店とかにはもうそういうつまみは売っていないんですよ。(写真6)

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オーダーで、作ってもらっているものもあるよ。釣り道具の箱を作るときに使ったりするんだけど。あとは、紐を通す金物もオーダーでつくってもらっていたりね。ほら、釣りやるときに首から下げたりできるものだよ。

_本は買い集めているのですか?

F:そうだね。最近だと、この辺でも古本屋さんが増えてきていて、そういうところでもよく買うようになったかな。古本7割に対して新しい本が3割くらい。まあ、古本は安いからね。最近だと、安すぎてかわいそうに思えてきちゃうくらい安い本もあるよね。それとやっぱり、わたしはデジタルより紙の本が好きかなあ。

_家の本は全部読んでらっしゃるのですか?

F:いや、全部じゃないよ。読もうと思って読んでない本もあるし。途中までの本とかも。買うのに読むのがおっつかないよね。(写真7)

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_今回、ボタンも可愛いですね!これはどうやって作っているのですか?

F:端が丸くなってるタイプのボタンは、木を組み合わせた一本の木を切って作るよ。 最後は一個ずつ端をカンナで斜めに切って形を作っていくんだよ。「面取る」っていってね。小さすぎて持つのがすごく大変だったな。今回は、最後あまりにも小さいから、道具じゃなくて、ものを動かして最後綺麗に仕上げていったよ。端がランダムに飛び出しているボタンは、作り方が全く違っていて、こっちは一個ずつしかできないんだよね。木をひとつずつ同じ形、厚さに加工して、接着剤でランダムにくっつけているんだよ。だからこっちの方がだいぶ手間がかかっている。パーツは同じだけど、並び方、順番を全部変えているから、ちょっとずつ違う感じになっているよ。(写真8)

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_藤田さんの1日はどういうものですか?

F:朝7時ころに起きて、全員分のコーヒーを淹れてパンを焼くのが私の役目になっていてね。みんな一緒に食べるからさ。コーヒーは牡丹町にあるピコっていうコーヒー屋さんのコーヒーを、わたしが買ってきて挽いて淹れるっていう役目で。あと、パンはそんなにこだわったものでもないんだけど、パンを焼いて食べて。それから新聞読んだりテレビみたりしてから9時すぎくらいに、上の仕事場で作業したりするかな。たまに、たえ(藤田さんのお孫さん)を幼稚園に送っていったりすることもあるんだけど。あとは、作業場で、つくっているのは半分くらいかなあ。本読んだりしていることが多いかもね。大体食事前後以外は、この作業場にいることが多いね。居心地がいいからね。お昼とかお夕飯とか自分で作ったり外に食べに行ったりすることもあるよ。表に行くときは食べにいくところは決まっていて、ひとつは万年橋にあるカレー屋さん。たまに一人で食べに行ったりするよ。夕飯からしばらくはテレビ見ていることが多いかなあ。また夜の9時くらいから作業場に戻って、12時くらいまではやっているかなあ。最近、少し早くなって1時とかはなくなったけど。間がのんびりやっているからね。夜は遅くなっちゃうこともあるよ。ほかに、空いた時間には年中骨董屋さんやギャラリーに行ったりしているよ。

_どんな展示に行かれるのですか?

F:木工のものとか、金属のものとか、若いひとのものが多いかな。三越でたまにやっている伝統工芸の展示とかも行くけどね。三越はこの辺りでは一番近いデパートだから、しょっちゅう行くよ。月に3回は行くかな。昨日も行ってきたんです。現代美術館もよく行くよ。ギャラリーはいろんなところによく行くかな。

_一番最近行かれた展示はなんですか?

F:板橋のギャラリーfu do kiで、木に土を塗ったりしてオブジェを作る林さんっていう女性の方の展示をやっていたから行ってきたよ。そこはギャラリー自体もすごく良くて。その場所は、昔は事務所として使っていたみたいだけど、建築家の中村好文さんが改装したとこで、すごく居心地がいいところになっていて。地下にカフェもあってコーヒーもご馳走になったりしたな。お客さんも2~3人で、オーナーさんと林さん、みんなで話をして、すごい長居をしたけど面白かったよ。好きなギャラリーっていうのもいくつかあって、飯倉片町っていって、六本木から東京タワーに行くところにある、古い洋風なアパートを改装したようなギャラリーGallery SUも好きなところのひとつだね。

_そういう情報はどこで?

F:雑誌やインターネットが多いかな。やっぱり、自分に直接関係しているわけじゃなくても、そういうものを見るのは楽しいよね。

_今まで受けたオーダーの中で一番難しかったものはなんですか?

F:難しかった…というと、やっぱり大きすぎるものや小さすぎるものは難しくて。大きなものでいうと、以前美大の学生さんの卒業制作のお手伝いでをしたことがあって。三畳くらいの大きさで普通の天井くらいの高さの茶室みたいなのを作りたいっていうんで、木を十二本くらい組み合わせて、骨組みを作って。大きくて大変だったなあ。下のリビングの何もないところでやったんだけど、組み立てると部屋がいっぱいになっちゃって。小さいものだと、レコードの針を受ける部分のものとかね。そういう時、図面は実際の大きさよりも5倍大きい図面とかで作ったよ。実際のものが小さすぎるからね。これは、木工屋さんからのオーダーだったな。いろいろレパートリーはあるよ。機械でできないものとかを作っているね。

_漆もここで塗るんですか?

F:漆は湿気で乾くんで、漆を塗ったあと、その箱の中で一晩乾かすんですよ。漆は自己流だけどね。塗って乾かして磨いてっていうのを繰り返すから、そんなに難しくはないんで。あと、漆はニスと違って、塗ってから2~3年で、だんだん艶がいい感じになってくる、塗ったあとすぐじゃなくって、ちょっと経ってから良い色になるからね。そういうところも、好きな塗料だね。手間はかかるけどね。漆は、京都に行った時に買ってくるんだよ。

_今後挑戦したいことはありますか?

F:今は特にないけど常に新しいものを、って思っているけどね。頼まれていることはあるから、それをやらないとね。でも、10月に入っている木工サークルの展示があるから、そのために面白い引き出しとか作ろうかなって思っているよ。10月だからそろそろ考えないとね。


清澄白河の指物師・藤田さんは愉快でお茶目でかわいらしいお人。新しいことに挑戦したり、いろんなところに出かける好奇心旺盛でとってもパワフルな方です。このシンプルに美しい寄木のハンドルには、そんな藤田さんのものつくりへの挑戦と愛が込められている気がします。

<今回のハンドルが作られていく過程や藤田さんの作業風景>

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